無形文化財 田宮流居合
 田宮流居合のみのかね=規矩準縄・基本のことがら

 

○ 抜き付け

 

 「『右膝の頭を規矩に抜く刀、三角のカネの大事こそあれ』(田宮流伝書『口伝』の秘歌)刀を抜くに手が前に出れば敵に押さえられ、脇に抜けば敵間遠し、右膝の頭をカネに三角に抜くは自然のカネなる故、たとえ敵に手口を押さえられても気筋は向こふにわたる。その抜き付くる刀は敵にあたる」 (田宮流伝書『口伝』より)

解釈
 右手は柄を軽く握り、柄頭を目的の方向に、鞘を左にかえしながら抜き出す。このとき右膝頭を規矩にするのである。手が前に出るのでなく、また脇に出るのでなく、右膝頭を主軸として抜くこと(三角に抜くという)。これが自然の法則である。

演技
 右手だけでなく、鞘手(左手)を生かしながら、序、破、急に切先約十糎残るまで抜く(ここで留まってはならない)。そして切先を離れるは急中の急である。また左手は小指が帯を押せるまで左肘を背中につく気持ちで鞘がうしろに一文字になるよう、左肩を充分に引いて抜きつける。これを「引き手を生かす」という。抜き出すときに左手を生かしながら抜くことを「鞘引き」という。右手だけで抜くことを「牛蒡抜き」といって忌み嫌う。柄頭を目的の方に向けることを「鳥刺しの理」という。小鳥を捕るとき、竿に「とりもち」をつけて差し出すのであるが、竿を横に動かすと小鳥は大きなものを感じて逃げる。竿を静に直すぐに突き出すと「点」のように小さいので気づかれずに捕えられるところからきている。柄に帯刀した状態から下に力で押えることなく、むしろ柄をだきかかえるような心持ちで抜きかけることが好ましい(教伝)。また刀を抜き出すには「朽ち木折り」あるいは「大根折り」といって、刀の棟を鞘の背にすりつけるように抜けば万事に無難である(教伝)。さらに教伝によれば「鯉口を切る時は、岩清水の湧き出づるように次第に谷川の流れるように、終わりは懸瀑の躍下するように後は波もなく音もなく、千古の碧を堪えた深淵の心地である」ともある。

 抜き付けで注意すべき五原則
◎敵にわからないように、極めて自然に序、破、急に抜くこと。
◎右手のみでなく、左手(鞘手)を生かすこと。
◎鞘離れをよくすること。
◎全身全霊の力を剣先に集中すること。
◎刃筋をただしくして行うこと。