無形文化財 田宮流居合
 田宮流居合のみのかね=規矩準縄・基本のことがら

 

○ 鞘の抜きこころ

 

 「抜きこころが早からず、遅からず、初めこめたる気を静かに臍下にいれつつ抜き出すべし。抜き出すに鞘のうち滞りなく音なき様なるべし。叉抜き出す鞘を離るるまでに三段の分ちあり。柄に手を移すと直ちに抜き出し臍下に納むる気に随ひ初めは静かに、中は早く終わりは急に抜くなり。是れ即ち序、破、急なり。猶委曲を言へば、三尺の太刀を抜くに、はばき元一尺を抜くは序なり、中一尺は破なり。末一尺は急の位 たるべし。その急、切先を離るる際より急中の急に至る。此くの如く次第を分ち早く末を抜くべし。是れ気より業に移る自然の理に随ふ教へにして、業を熟し心手相応ずるの域に至らざれば、其の委しき心は辨じ難し。抜き出すときの刀の身、鞘のむねに寄らず、刃方へ薯かず、鞘の真中より素直に抜き出すべし。抜き出すときおおむね刃方を引きて抜き出すなれば、一方に言へば、むねをする意を以て抜くべし。此くの如くせば、後には鞘の真中よりしてむねに寄らず刃に寄らずさまたげなく抜かるるものなり。是れ手練の一術なり。」(田宮流伝書『口伝』より)

解釈
 抜きつけは早くなく、遅くなく、初めこめたる気を静かに臍下に入れながら抜くのである。が、鞘に音をたてないように、初めは静に、中は早く、終わりは急に抜き出す。これを序、破、急に抜くという。これを詳しくいえば三尺の刀を抜くのに、はばき元一尺を抜くのが序であり、中一尺は破で、末一尺は急であり、その急、切先を離るるは急中の急である。このようにして早く抜くのである。これは気から業に移る自然の理の教えで、業が充分にできて、心と手が相応ずるまでに至らなければならない。また抜き出す刀身は、鞘によらず、刃の方につかず、鞘の真中より抜き出すとき、むねを擦る気持ちで抜くことである。このようにすれば、修練の度、重なるにしたがい鞘の真中よりほどよく抜くことができる。これ手練の一術である。