無形文化財 田宮流居合
 田宮流居合のみのかね=規矩準縄・基本のことがら

 

○ 柄の握りの事(手の内)

 

 太刀の柄を握るに、其掌中は双手の勢必ず一なること是人の常なり。誠に手巾を水に浸し四折りして縦に持し、之を絞るに双手倶に中指より小指にて次第に力の強くしまるものなり。此の如くすれば拳自ら内に入り臂延び肩平らかにして、此の時の手裏の容即ち天性筋骨の順なれば柄を握るもこの容を失はず。肩を落とし、臂を延ばし食指を軽く屈め、中指より小指に至まで、次第に左右の力を斉しくし聊か大指を押す意を用ふるを之を良手裏と謂ふ。初学より必ず此くの如くすべきものと定め、若しこれに違えば心を用いて之を改むべし。叉手裏に緊緩のことあり。其の打ちかくるときは手裏をしめ、構えたるときは緩め、叉留むるときにもしめ、叉緩めてあるべし。是れ業に随ひて為すべきことにして常にしむべからず。凡そ学ぶことは、初めを慎むを用す。天賦の筋骨に順はざれば、姿勢に癖を生じ上達することを得ざるべし。夫の傘を翳し、杖を曳くも其の手裏五指の緊縮、手頚の力、臂の均衡、肩の落ち方如何は之れは較べて見て、自ら筋骨の順に適することを知るべし、夫の農夫の鍬、樵夫の斧に於けるも、大抵天賦なる筋骨の順に違ふことなく、手と腰との均衡自然ならざれば、全く用をなし難し。手裏の緊緩等は、食することに箸を把るが如く、識らずして其の程度を失はざるべし。(田宮流伝書『口伝』より)

解釈
 太刀の柄を握るとき、その掌は左右とも力がひとつになることは自然のことで、試みに手巾(ふきん)を水につけて四ツに折ってこれを縦に持ち、絞ると左右ともに中指から小指にしたいに力がしまる。このようにすれば、拳は自然と内に入り肘は延びて、肩はなだらかとなり、この手の裏(うち)は人間自然の身体の動きである。柄を握る場合も、その要領で、肩を落し、肘を延ばし人指し指は力を抜いて曲げ、中指から小指に順次に左右の力を同じくして、少し拇指を押す気持ちであること。これを良手裏(よきてのうち)という。初心の時から必ずこうすべきで充分に心懸けること。また「手の内」に緊緩(しめ、ゆるめ)のことがある。打ち下ろすときは手の内をしめ、構えたときは緩め、受けとめるときにもしめ、緩めをしなければならない。すべて業に随ってなすべきで、何時も締めつづけてはいけない。すべて修業は初めが大事で、この人間自然の動きに反すると姿勢に悪い癖ができ上達しないのである。人が傘をさし、ステッキをつくときも、その手の内五指の緊縮、手首の力、肘の均衡、肩の落ち方、などはこれを柄を握る手と較べるとまったく人間自然の身体の動きと同じであることを知る。農夫が鍬を樵夫が斧を使う場合も人間自然の動きで、手と腰との均衡が自然の動きでないとまったく役に立たない。手の内の緊め緩めは食事のときに箸をとるように自然と知らず知らずにしている。
演技 柄の握り、すなわち手の内の心持ちは、右手を基準として人指し指を軽く伸ばして、縁金をさけて、指先が鍔にふれるところで握り、右手を前に左手を後にして、その感覚は指ニ、三本程度に開く。両手首を軽く折って内にくりこみ、拇指と人指し指の真ん中(親指の第一関筋)を柄の棟につくよう横から握らず、上から柄の背を挾ように握り、拇指は中指の内側を